パスポートのコピー、賃貸契約書、銀行の明細、署名済みの書類。誰かに必要と言われて、頼みの最後に「メールで送っといて」と付くやつです。添付ボタンを押す前に、ひとつ知っておいてください。普通のメールは、はがきです。届くまでに複数のサーバーでコピーされ、そのあとは送信トレイと相手の受信トレイに、どちらかがアカウントを持ち続けるかぎり残ります。

安全に送るには、あと数分の手間がいります。書類はパスワード付きPDFにして送る。パスワードは別の経路で(SMSか電話で)伝える。相手に不要な部分は、保護する隠す。用が済んだら送信済みのコピーを消す。このページでは、iPhoneとMacでその各ステップを、ファイルを一切アップロードしない無料のツールを使って説明します。

パスポートのスキャンをメールで送るのがまずい理由

メールは秘密を運ぶために作られたわけではありません。あるコンピュータから別のコンピュータへ、間にある機械を何でも経由してメッセージを届けるために作られました。だから今もどこにでもあり、だからパスポートの写真には向いていません。送信ボタンを押したあと、添付ファイルに何が起きるかというと:

  • 移動ではなく、コピーされます。 あなたのメールプロバイダがコピーを持ち、相手のプロバイダもコピーを持ち、メールアプリの入った端末はすべてそれぞれのコピーをダウンロードします。
  • 消えることがありません。 誰かが意識して削除しないかぎり、送信トレイと相手の受信トレイに残り続けます。何年か後にどちらかのアカウントが乗っ取られたら、スキャンはそこにあったまま。「パスポート」という言葉で検索すれば出てきます。
  • 転送までワンタップです。 賃貸の担当者が管理会社に転送し、管理会社がオーナーに転送し、オーナーにはアシスタントがいる。誰も悪気はなかったのに、聞いたこともない受信トレイにコピーが6通。しかもそういう受信トレイこそ、犯罪者が狙う場所です。

最近のプロバイダの多くが使っているメールサーバー間の暗号化は、通信の途中で盗み聞きする人への対策にはなります。でも両端に残ったコピーには何の効果もありません。そして本当のリスクはそこにあります。だからファイルそのものが自分を守る必要があるのです。そうすれば、迷子になったコピーはすべて、パスワードを知らない人にはただのノイズです。

5ステップの安全な送り方

これが方法の全体像です。各ステップの詳細はこの下のセクションで説明します。

  1. きれいにスキャンする。 手早く撮った写真ではなく、本物のスキャナーを使います。iPhoneのメモアプリ内蔵のスキャナーか、信頼できるスキャナーアプリで。平らで、余白が切り落とされていて、読みやすいPDFになります。(どのスキャナーアプリがプライバシーを尊重しているか分からないときは、見分け方はこちら。)
  2. 不要な部分を隠す。 相手に、実際にどの項目が必要なのか聞き、それ以外は完全に黒く塗りつぶします。透けるハイライトペンなんかではなく、きちんとした方法で。
  3. PDFにパスワードをかける。 現代のPDF暗号化(AES-256)はネットバンキングと同じ水準です。弱いのはいつもパスワードのほうなので、ペットの名前ではなく、無関係な単語を並べた短いフレーズにしましょう。
  4. ファイルはメールで、パスワードは別の経路で。 保護したPDFを添付して送ります。それからパスワードはSMSで送るか、電話で口頭で伝える。同じメールには絶対に書かないこと。続けて送る別のメールもだめです。同じ受信トレイに届けば、同じ問題です。
  5. 送信済みのコピーを消し、相手にも削除してもらう。 必要なものが届いたと確認できたら、送信トレイとゴミ箱からメッセージを消します。「お手続きが済みましたら削除してください」の一行は普通のお願いで、たいていのプロは応じてくれます。

順番が大事です。隠すのは暗号化より前(ロックしたファイルは編集できません)、暗号化は添付より前(あちこちにコピーされるのは添付ファイルです)。

メールで送る前にPDFにパスワードをかける方法(Mac、iPhone、Adobe不要)

有料のPDF編集ソフトは要りません。無料の方法が2つあります。

Macなら、プレビューで。 いつもPDFを開いているアプリが、数クリックで暗号化できます。

  1. プレビューでPDFを開きます。
  2. ファイル → 書き出すを選びます。
  3. アクセス権をクリックします(古いmacOSでは、代わりに暗号化のチェックボックスをオンにします)。
  4. 開くときにパスワードを要求をオンにして、パスワードを2回入力し、適用、続いて保存をクリックします。

書き出したファイルには新しい名前を付け、いちど開いてパスワードを聞かれることを確認してから、それを添付しましょう。

iPhoneでも、どの端末でも、ブラウザで。 ファイルアプリにも写真アプリにも「パスワードを付ける」ボタンはありません。そしてよく言われる「パスポートのスキャンを『PDF保護』サイトにアップロードしろ」というアドバイスは、矛盾しています。守ろうとしている書類を、パスワードごと知らない誰かのサーバーに渡してしまうのですから。

代わりに、無料のPDF保護ツールが、すべてブラウザの中で処理します。iPhoneのSafariでも、どのコンピュータでも、開いてPDFを選び、パスワードを設定し、暗号化されたコピーを保存するだけ。暗号化は端末の上で行われ、ファイルもパスワードも外に出ません。しかも自分の仕事ぶりを自分で確かめます。出力したファイルをパスワードありで開き直してちゃんと開くことを確認し、パスワードなしでは拒否されることも確認します。入力中にはパスワードの強さを分かりやすいメーターで表示します。

どちらの方法でも、できあがるのは標準的な暗号化PDFです。プレビューでもChromeでもメールアプリでもiPhoneでも、パスワードを聞かれて普通に開けるので、相手側に特別なものは何も要りません。

パスワードの選び方。 小細工より長さです。無関係な単語を4つ並べたもの(「copper-lantern-tuesday-fox」のような)は、「P@ssw0rd1」よりはるかに強く、電話口で読み上げるのも簡単です。ほかの何かの使い回しはやめて、書き留めておきましょう。暗号化ファイルに「パスワードを忘れた場合」はありません。それこそが、この保護が本物である証拠です。

隠すのは先に。スクリーンショットの黒い四角が「隠し」にならない理由

たいていの依頼は、書類全体のずっと少ない部分しか必要としません。本人確認をしたい大家さんに必要なのは、名前と写真と有効期限で、番号やバーコードはたいてい不要です。「実際に必要なのはどの項目ですか?」と聞いて、残りは消しましょう。

ここに落とし穴があります。たいていのアプリで文字の上に黒い四角を描いても、文字は消えません。四角が文字の上に乗っただけです。PDFなら、誰でも四角の下の文字を選択してコピーできますし、四角そのものを消すこともできます。透ける「隠し」は、何もしないより悪い。安全そうに見えるからです。

本当に隠す方法は2つあります。

  • PDFの場合: 墨消しツールを使います。隠したい部分に四角を描くか、消したい名前や番号を入力して、出てくる箇所をまとめて指定します。出力は、四角を焼き付けた平らな画像として1ページずつ作り直されます。四角の下にコピーできる文字は残っていません。ブラウザの中で動くので、ファイルは端末から出ません。
  • iPhone上の1枚の画像の場合: 画像を開いてマークアップをタップし、隠したい項目を不透明度100%のべた塗りの黒い図形で覆います(ハイライトペンは絶対に使わないで)。それから結果をスクリーンショットで撮り、編集した元画像ではなくスクリーンショットを送ります。スクリーンショットは平らなピクセルの集まりで、はがせる層は下にありません。iPhoneから書類を共有するガイドで手順を説明しています。

そのあとで初めて、隠したファイルにパスワードをかけます。

書類の送り方、いろいろ比較

「安全」には3つの意味があります。ファイルが移動している間に守られるか。誰かのコンピュータに置かれている間に守られるか。そして、あとから取り返せるか。

送り方 移動中は守られる? 保存中は守られる? 削除を自分で管理できる? 向いているもの
普通のメール添付 たいていは(メールサーバー間のみ) いいえ。届いた受信トレイのすべてで読める いいえ 重要度の低い書類。領収書や署名済みの許可証など
パスワード付きPDFをメールで はい はい。パスワードなしでは読めない いいえ。ただし迷子のコピーはパスワードなしでは無意味 身分証、明細、契約書。メールしか受け付けてもらえないとき
暗号化メールサービス はい はい(双方が使っていれば) 一部。期限付きメッセージにできるものも 定期的にやりとりし、相手も設定済みの場合
相手側の安全なアップロードポータル はい はい。受信トレイではなく相手のシステムに届く いいえ。ただし受信トレイには何も残らない 金融機関、行政機関、人事部、医療機関
期限付きのiCloudやDriveのリンク はい リンクの設定次第 はい。リンクはいつでも無効にできる 限られた期間だけ数人に必要なファイル
エンドツーエンド暗号化のメッセージアプリ はい 双方のスマホ上では、普通のメッセージとして 一部。双方が使っていれば消えるメッセージも お互いのスマホを信頼できる人同士の気軽なやりとり
FAX、または直接手渡す FAX:いいえ。手渡し:はい 相手がどう扱うか次第 いいえ それを要求する職場。原本の確認が必要な場合

3つの行には補足があります。

「暗号化メールってどう送るの?」 みんなが言いたいのはエンドツーエンドの暗号化、つまり送り主と受け取り主だけが読める仕組みです。それには双方が対応するサービスを使っている必要があります。毎月やりとりする会計士にならいいのですが、大家さんへの一度きりの送信なら、パスワード付きPDFで実質的に同じ結果が得られ、相手は何もインストールしなくて済みます。

期限付きのリンク。 iCloud DriveやGoogle DriveからPDFを共有して、来月リンクを切る。これは、限られた期間だけ複数の人が契約書を必要とするときの、大人の選択肢です。ファイルはあなたが持ち、相手は見るだけ。(MacのMail Dropも、巨大な添付ファイルを似た仕組みで送れます。リンクは30日で期限切れになります。)リンクは便利さであって、パスワードの代わりにはなりません。リンクを手にした人は誰でもファイルを手に入れられます。

ポータル。 相手側に安全なアップロードページがあるなら、金融機関や行政機関、人事部の多くにはあります。メールのほうが速くても、そちらを使いましょう。あなたの書類が誰かの受信トレイに住みつかないように、まさにそのためにある仕組みです。住宅ローンに申し込むとき、給与明細や取引明細はポータルに出すべきもので、メールのスレッドは質問のための場所です。

どんなことがあってもメールで送ってはいけないもの

パスワードを付けても危険すぎるものがあります。パスワードを1回推測されただけで、あるいは相手が1度うっかりしただけで、まるごとの身分情報を渡すことになるからです。

  • マイナンバーや国民ID番号・社会保障番号、生年月日、顔写真付き身分証のセット。 ひとつだけでも問題ですが、そろえばなりすましキットです。本当に3つとも必要な書類があるなら、そのためのポータルや窓口での手続きがあります。
  • 銀行のログイン情報、カードの暗証番号、ワンタイムコード。 まっとうな企業がこれらをメールで聞いてくることは、絶対にありません。聞いてきた時点で、それは事務手続きではなく詐欺です。
  • 相手が頼んでいないもの。 「とりあえず全部送っとこう」は、世に出回るコピーを増やすだけです。求められたものだけを送りましょう。
  • 本人の了解なく、他人の書類。 配偶者のパスポート、子どもの診療記録。自分のものでないなら、先に聞いてください。

相手がメールにこだわるとき

大家さんや人事担当者、ローン担当者がメールを求めるのは、あなたに安全だからではなく、彼らに楽だからです。あなたが率直に言えば、たいていの人は小さな変更に応じてくれます。

「喜んでお送りします。パスワード付きのPDFで添付して、パスワードはSMSでお送りしますが、この番号で合っていますか? お手続きが済んだら、メールは削除していただけますか?」

誰かを責めているわけではありません。自分がこれからすることを説明しているだけです。たいていの返事は「どうぞ」です。そして言い忘れていたポータルがあるなら、ここで思い出してもらえます。

押し返されたら、「うちのシステムは普通の添付ファイルしか受け付けないんです」と言われたら、それでも選択肢はあります。

  • とにかく保護したPDFを送る。 どのPDFリーダーでも、パスワードを入力すれば開けます。「うちのシステム」は、たいてい誰かの受信トレイのことです。
  • 送る量を減らす。 必要な項目だけに絞って隠せば、保護されていない添付ファイルでも、見えるのは最小限で済みます。
  • 安全な経路を尋ねる。 「ふだん、お客さまの身分証はどこにアップロードしてもらっているんですか?」と聞けば、話している相手が日常で使わないだけのアップロードページが見つかることがよくあります。
  • リスクを分ける。 隠した書類はメールで送り、抜けている部分、たとえば番号は、電話で伝えます。

アパートを借りるシナリオガイドでは、大家さんが妥当に求められる書類の範囲を説明しているので、普通の依頼と度を超えた依頼を見分けられます。

送ったあと。自分のコピーはどこに置くべきか

用事は済みました。ここで、スマホに残った足跡を見てください。カメラロールにパスポートの写真、ファイルアプリに「スキャン 14.pdf」、ダウンロードフォルダに保護されていないコピー、送信トレイにあのメール。どれもあなたの身分情報の野放しのコピーで、ロックの外れたスマホを渡した相手と、写真へのアクセス権を持つすべてのアプリから見えています。

  1. 送信したメールを送信トレイから消し、続いてゴミ箱からも消します。
  2. 保護されていない作業用コピー(元のスキャンや墨消し版)を、ファイル、ダウンロード、写真から消します(「最近削除した項目」からも)。
  3. マスターコピーを1つだけ、鍵のかかる場所に。 この書類はまた求められます。毎回スキャンし直すのはやめましょう。鍵のかかる場所とは、Face IDを求めてきて、ファイルを暗号化して保存し、ランチの写真の並びにパスポートを表示しない場所のこと。なぜそれが大事かはこちら

その最後の仕事こそ、Paperlockの役目です。パスポートや賃貸契約書をいちど保存すれば、Face IDの奥で暗号化されてスマホの中に保管され、機密書類のサムネイルはあなた本人と確認できるまでぼかされたままです。次に金融機関に求められたら、その場でPDFとして書き出し、隠して、保護して、送信。写真アプリを掘り返すことも、迷子のコピーが残ることもありません(仕組みはこちら)。そのマスターコピーこそ、きちんとバックアップしておく価値のある1つです。

5つのステップは、いちどやれば3分で済みます。毎回やれば、受信トレイが盗まれても、自分のものでも相手のものでも、世界の終わりではなくなります。