災害で書類の原本を失っても、生活が止まらないように公的な仕組みが用意されています。通帳や印鑑がなくても金融機関は本人確認をして払戻しに応じるよう金融庁が要請し、戸籍は法務局に副本があり、罹災証明書は申請すれば市町村長が交付する義務があります。つまり、原本を抱えて逃げる必要はありません。それでも写しがあると、本人確認も保険請求も税の手続きも、何日分も速くなります。この記事は「今日スマホに撮っておく書類」と「被災したら何から始めるか」の2つに絞って書きました。
- 通帳なしでも本人確認ができれば払戻しに応じるよう金融庁が要請災害救助法が適用された災害が対象
- 副本戸籍は管轄法務局にも保存され、滅失時は副本から再製戸籍法第8条
- 遅滞なく罹災証明書は申請があれば市町村長が交付する義務災害対策基本法第90条の2
出典:金融庁「災害等における被災者等支援について」、法務省、内閣府防災情報のページ。2026年10月確認。
原本は持ち出せない前提で、写しをスマホに
非常持ち出し袋に書類を入れておく発想は、地震のときには役に立ちません。発生が夜中なら袋ごと取り出せないことがあり、台風や水害なら袋ごと濡れます。現実的なのは、書類の写しをスマホに入れておき、スマホとは別の場所にもう1部置くことです。
撮るのは「番号と名義が分かる面」だけで足ります。通帳なら表紙と1ページ目、保険証券なら証券番号の面、免許証なら表面。暗証番号や登記識別情報の番号そのものは撮りません。それらは写しが漏れたときの被害が大きく、しかも再発行の手続きでは要らないからです。デジタル防災ファイルの作り方と災害に備える書類のページには、家族構成に応じた一覧があります。
もう一つ、家の中の写真を各部屋で撮っておいてください。家電、家具、壁、床。雑損控除や保険請求では「被害の前はどうだったか」を示せる人のほうが手続きが早く進みます。
被災後にすることの順番
- 罹災証明書を市区町村に申請する住家の被害を調査して市町村長が交付。給付・融資・減免の入口になります
- 金融機関に連絡し、払戻しの相談をする通帳・印鑑・証書がなくても、被災状況を踏まえた本人確認で応じるよう要請されています
- 保険会社に事故受付の連絡をする証券や届出印がなくても、契約内容が確認できれば請求の案内を受けられます
- 身分証の再発行を順に進めるマイナンバーカード、免許証、在留カード、パスポート。り災証明書で手数料が変わるものもあります
- 税の軽減を確定申告で申請する雑損控除か災害減免法。損害の写真と修理の見積・領収書を残しておく
順番を間違えると二度手間になります。入口は罹災証明書です。災害対策基本法第90条の2により、被災者から申請があれば市町村長は遅滞なく住家の被害を調査し、罹災証明書を交付しなければなりません。この証明書は、被災者生活再建支援金や義援金、住宅金融支援機構の融資、税・保険料・公共料金の減免、応急仮設住宅や住宅の応急修理など、ほとんどの支援の判断材料になります。
申請の前に、片付ける前の状態を写真に残すことが大切です。調査員が来るまで待てない事情は多いので、全景と被害箇所の両方を撮り、撮影日が分かる状態で残します。
罹災証明書の申請と並行して、金融機関、保険会社、身分証の再発行、税の手続きへと進みます。身分証は、本人確認の基点になるマイナンバーカードか運転免許証を先に戻すと、あとの手続きが楽になります。
通帳・印鑑・カードをなくしたとき
災害救助法が適用された災害では、金融庁が金融機関に「金融上の措置」を要請します。預貯金については、預金証書・通帳・届出印を紛失していても、被災状況を踏まえた確認方法で本人の申出であることを確認して払戻しに応じること、事情によっては定期預金の期限前払戻しや、その預金を担保にした貸付にも応じることが要請事項に入っています。手形・小切手の扱い、保険金の迅速な支払い、保険料の払込猶予も同じ要請に含まれます。
このとき役立つのが、スマホに入れた通帳の写しと本人確認書類の写しです。金融機関は口座を探せますが、支店名と口座番号が分かれば窓口の時間が大きく違います。
戸籍・マイナンバーカード・パスポートの再発行
戸籍は、市区町村に正本、管轄の法務局に副本を置く二重の仕組みです(戸籍法第8条)。東日本大震災では津波で庁舎が被害を受け、宮城県と岩手県の4市町で正本が失われましたが、法務局の副本から再製されました。被災後に戸籍謄本が必要なら、2024年3月からは本籍地以外の市区町村の窓口でも請求できます。
マイナンバーカードを失ったときは、まず機能停止の連絡をしてから再交付を申請します。手順はマイナンバーカードを紛失したらにまとめました。災害などで本人に責任のない事情での再交付は手数料が免除されることがあるので、市区町村の窓口でり災の事情を伝えてください。在留カードは、り災の場合は「り災証明書等」を添えて再交付を申請する流れが出入国在留管理庁の案内に示されています。パスポートの再発給はパスポートを紛失したらを参照してください。
税の軽減に必要なもの
災害で住宅や家財に損害を受けたときは、所得税で雑損控除か災害減免法による軽減免除のどちらか有利な方を選べます(災害減免法はその年の所得金額が1,000万円以下の人が対象)。どちらも確定申告で申請し、損害額の計算には、被害を受けた資産の取得時期と金額、修理や撤去にかかった費用の見積書・領収書、被害の写真が材料になります。片付けの費用の領収書も捨てないでください。損害を受けた年の翌年の確定申告で間に合わなかった分は、更正の請求で遡れる場合があるので、税務署か税理士に相談してください。
スマホの写しを「使える状態」に保つ
写しは撮って終わりではなく、更新が要ります。免許証を更新したら、保険を切り替えたら、口座を増やしたら、そのたびに1枚撮り直す。半年に一度、防災の日と年末に確認するだけでも十分です。書類のバックアップの考え方は普段の整理と同じで、災害用に特別なことをする必要はありません。
Paperlockに書類を入れておけば、何の書類で、誰の名義で、どの会社のものかを読み取って自動で整理し、「火災保険の証券番号は?」と聞けば該当する書類を添えて答えます。保存は端末内で暗号化され、Face IDで開きます。有料プランのiCloud同期をオンにしておくと、暗号化された複製が本人のiCloudに残るので、スマホを失っても新しい端末で引き継げます。
支援制度の内容は災害ごと、自治体ごとに変わります。被災したら、市区町村の窓口と内閣府の防災情報のページで最新の案内を確認してください。